【回答者】 昌平クリニック院長 鍋谷 欣市
正しい漢方診察法を受ける
胃を切除後、10年を経過されたとのこと、おめでとうございます。
ご質問に合う漢方薬は、術後の体力を補い、食欲を増進させる補剤と呼ばれる
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) か
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)のいずれかが適していると思われますが、術後で体力がない、疲れやすいなどの訴えだけではわかりません。正しい漢方の診察法は、少なくとも望聞問切という四診(望診、聞診、問診、切診)と、現代医学的な検査成績を合わせて検討し、その方の「証」というものを把握したうえで、適切な処方を決定するものです。
望診とは目で診る診察です。胃切除後には、鉄欠乏性貧血がよく起こるので、皮膚、爪、舌などをチェックします。聞診は、息のにおい、声、咳の状態などを診ます。問診は胃切除後の食事量、疲れやすさ、風邪の引きやすさ、便通、睡眠などあらゆる自覚症状を問います。切診は脈の状態を診る脈診と、腹部の筋肉の緊張状態、しこり、どうきなどを手で触れて診る腹診があります。体力がない状態を虚証(体力のある人は実証)といいますが、虚証のときは腹部大動脈の拍動(ドキンドキンという音)がへその周りで感じられます。ご質問者も音が感じられるのではないでしょうか。また、手足の冷えもあると推定されます。
十全大補湯か補中益気湯
四診の結果を診なければわかりませんが、ご質問者はおそらく虚証と察せられます。虚証の方には人参、黄耆、地黄などを含み、虚のエネルギーを補う補剤を処方します。補剤はいくつかありますが、人参と黄耆の入った参耆剤が多く、
十全大補湯と
補中益気湯はその代表といわれる物です。両方とも10種類の生薬が含まれていますが、その中の5種類は共通した成分です。
十全大補湯は、気虚(倦怠感があり元気がない)と血虚(貧血と同じ症状)の薬とされ、免疫力の低下を伴うような体力の低下、疲労倦怠感、食欲不振、貧血、寝汗、皮膚乾燥などを認める場合に適します。
補中益気湯は気虚の薬とされ、前述より軽い体力の低下、疲労倦怠感、食欲不振、寝汗、息切れ、どうき、口の中に白い生つばがたまるなどの症状を認める場合に適します。この2つのどちらかが良いでしょう。ほかにも
六君子湯(りっくんしとう)、
人参湯(にんじんとう)などがあります。
体質改善は気長な努力で
体質には身体的性質と精神的性質の両方が含まれ、さらに先天的体質と後天的体質に分けられます。ご質問者は、手術による後天的マイナスの体質でしょう。しかし、術後、体力がなく海外旅行をあきらめていた患者さんが、1〜2年の漢方薬の服用後、今は元気に海外旅行を楽しんでおられる例や、貝原益軒の「養生訓」にみる長寿例もあります。どうか努力して体質を改善してください。