【回答者】 昌平クリニック院長 鍋谷 欣市
体力の型に適した漢方薬を処方
胃を切除した後に起こる下痢と便秘の繰り返しは、胃が小さくなったために生じる胃の消化液分泌の変化や、さらに胃腸の消化吸収力の低下により起こると考えられます。漢方薬は身体に優しいといわれますが、一つの漢方薬を構成する数種類の生薬は、お互いの協調作用により効果を高め、また一方では副作用を減らすという配合になっています。
漢方薬を投与する際には目で診る望診、息・声・咳などの状態を診る聞診、便通・睡眠・体力などの自覚症状を聞く問診、脈や腹部の状態を診る切診の「四診」を行い、患者のあらゆる身体的症状を把握し、「証」という概念で体力の型を分類します。体力の充実した型は実証、低下した型は虚証、中間の型は中間証と分類され、それぞれの型に適した作用の漢方薬を選択して投与します。
ご質問者は胃を切除後、2年たちますが、いまだに食事量は少なく、食べるたびに下痢を起こされています。実際に身長、体重、脈、舌、腹などを診察していませんが、体力は中間証から虚証と判断されるので、準じた処方を考えてみましょう。
下痢の際の主な漢方薬
■五苓散(ゴレイサン)――
沢瀉(タクシャ)、
猪苓(チョレイ)が主薬で
茯苓(ブクリョウ)、
白朮(ビャクジュツ)、
桂枝(ケイシ)が加わる。水分の巡りを改善する薬で、中間証から実証、虚証まで幅広く用いられる。口渇があり、尿の少ない人の下痢に良い。
■半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)――
半夏(ハンゲ)が主薬で
人参(ニンジン)、
黄
(オウゴン)、
黄連(オウレン)なども加わる。中間証の人の下痢で、みぞおちのつかえ感、悪心、嘔吐、腹鳴がある人に良い。
■人参湯(ニンジントウ)――
人参が主薬。血色が悪く、冷え性でみぞおちのつかえ感がある虚証の人の下痢に良い。
■桂枝人参湯(ケイシニンジントウ)――
人参湯に
桂枝が加わった薬で頭痛、頭重がある人の下痢に良い。
■真武湯(シンブトウ)――
茯苓、
附子(ブシ)が主薬で
芍薬(シャクヤク)、
白朮などが加わる。虚証でけんたい感、手足の冷え、めまいなどがある人の水様性下痢に良い。
便秘の際の主な漢方薬
■桂枝加芍薬大黄湯(ケイシカシャクヤクダイオウトウ)――
芍薬、
桂枝、
大棗(タイソウ)、
甘草(カンゾウ)などに
大黄が加わる。中間証で腹満、腹痛のある人の便秘に良い。
■大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)――主薬の
大黄は腸のけいれんを緩め、中間証で常習性便秘の人に広く用いる。
■麻子仁丸(マシニンガン)――
麻子仁が主薬。中間証で硬いコロコロ便の便秘に良い。
■潤腸湯(ジュンチョウトウ)――
地黄(ジオウ)が主薬で
当帰(トウキ)、
麻子仁、
黄
などが加わる。体力が低下した虚証の人の便秘や、高齢者などで皮膚がかさかさし、兎糞状のコロコロ便の人に良い。
まず下痢に
人参湯か
真武湯を服用し、口渇があれば
五苓散を、嘔気があれば
半夏瀉心湯も試してください。どちらも、ひどい便秘にはなりませんが、便秘のときは
潤腸湯から
大黄甘草湯へと試してみてください。